マッタリ=1ダース【1p集】

第36話、愛情コロッケ

 コロッケを6つ頼んだ。

 早速、油の中に、コロッケが放り込まれる。

 ここは行き付けのミキヤという名のお肉屋さんだ。もっとも、肉を買うことは殆んどなく、揚げたてのコロッケが目的だった。

 さて、本日の店番はミキヒコ。スキンヘッドに、うっすらアゴ髭。そして、プロレスラー級の体格だ。

 筋肉モリモリで少し背の低い、若き日の主人ミキオが、瞳のかわいい町の小さなアイドル、ミキちゃんに恋をする。

 ミッキーとミキティだ。

 そのミッキーが、思いきって、ミキティに告白。ミッキーの願いは叶い、二人はお互いを思って、めでたく結婚。

 やがて産まれたのが、ミキマル。そして、その弟がミキヒコだ。

 ──コロッケが騒がしく油に浮き上がる。ミキヒコの眼光が鋭い。

 店の奥ではミッキーとミキマルが協力し、大きな肉をさばいているのだろう。

 筋肉がものをいう作業のはずだが、あの二人なら問題はない。そして傍らで、ミキティが鼻唄まじりに、ミンチカツやコロッケを、こしらえている。小さな頃から甘えん坊で、母親が大好きなミキヒコが、すぐに手伝いたがるのだ。

 家族でやってるコロッケ屋……いや、肉屋だった。もう、肉屋でもコロッケ屋でも、さほど変わりはない。

 ──コロッケが出来上がる。その時、店の奥から出てきたのは、ミキティだった。

 ミキヒコが丁寧に一つずつ紙袋に詰め、口を丸める。頃合いを見計らい、ミキティが軽やかにレジを弾く。

 私がお金を払うと、ニッコリ、ミキティスマイルが炸裂した。その横でミキヒコが、キラキラ笑顔で、私に熱々ホクホクのコロッケが入った紙袋を渡す。

 ミキヒコは、きっとミキティ似なのだろう。肌艶もいい。


 ──全て私の勝手な妄想なのである。

 とにかくココのコロッケは、美味い。外はカリッと、中はふんわり。加えて絶妙な塩加減。たくさんの幸せが、紙袋を開けた途端、この世の中に広がるのだ。

 早く家に帰り、家族と賑やかに食べたい。

 もしかしたら、取り合いになるかもしれない。でも、今はその、取り合いが無性にしたかった。

 潰さないよう小脇に抱えているだけで、何もかもが、温かく感じる。

 私はいつの間にか、ニヤケながら、走っていた。人に見せられない、表情だった。
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