Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
不意に聞こえた言葉に僕は思考を中断して怪訝な視線を向ける。
「何言ってんの。美久なんてどう見繕ってもか弱い女の子の代表じゃないか。」
「まぁ、オマエが過保護に育てたからには温室育ちなのは否定しないがな。」
明らかに僕への厭味を込めてふんっと鼻で笑って、須藤はグラスを揺らした。
「言っとくが、どんなに仲の良い親子でも年頃になりゃ『パパウザイ。』って言うのが女ってもんだ。それをそんじょそこらの親バカ以上のシスコンに十年も付き合ってきたような女だぞ。並大抵の器じゃない。」
「……………失礼だな。僕は美久にウザイなんて言われた事なんて無いからね。」
反論も虚しく、須藤は「俺なら半日でキレるウザさだ。」と重々しく頷く。
……………………い、言われた事ないから。
内心、いやーな気分を払拭できないまま、誤魔化すように焼酎で喉を鳴らす。
そんな僕を須藤は眺めて「ははあ」と一人何かを納得して目を眇めた。
☩ ☩ ☩
須藤と別れて、タクシーも拾わず静かな帰路を歩く。
少しでも酔いを冷ましてから帰りたい。
とはいえ、今日は呑んでも酔えず、ただ気が重い。
少しでも長く一緒にいたい。
だけど一緒にいるのはとても苦しい。
“オマエの姉ちゃんはオマエが思ってるよりずっと強い。今更オマエごときが我儘言った所で動じやしない。”
―――嘘だと思うなら試してみろ。
悪魔のような甘言を思い出し溜息を吐く。
…そんな事……。