Glass slipper☩シンデレラボーイは甘く永遠に腹黒に☩
軽い会釈で擦れ違う。
背後の二人が廊下を折れた瞬間、彼等のずっと後方を歩いていた人物に向かって勢いよく走りだした
――――のは須藤だった。
勢いもそのままに胸倉を掴み上げ廊下の壁に抑え付ける。
『ぐぇっ』とカエルが潰れたような声が洩れた。
「こらこら須藤。女性相手に乱暴だね。」
「麗那をどうした!どこへ連れてったんだ!」
相当テンパっているらしい須藤は僕の声にも聞く耳持たず。
彼女は首の圧迫に苦悶の表情を浮かべつつ、把握しかねる状況に目を白黒させていた。
僕は縋るような視線を向けてきた彼女にニッコリ笑った。
「ああ。いきなりこれじゃ貴女にはさっぱり理解できないですよね。ですから簡潔、且つ的確にご説明します。
貴女の連れ去った女性は柏木美久ではなく名取麗那。須藤の婚約者なんですよ、
白井さん。」
一瞬虚を突かれた顔がついで奇妙に歪んだ。
どうやら自分の失態に気付いたようで、何よりだ。
「さて、こんな須藤は僕も初めてで往(い)なしようがありません。ご自分の身が可愛ければ早急に彼女の居場所を吐くのが賢明かと思いますよ。」
そう言えども戸惑いを見せていた彼女だが、ぐっと強まる首の圧迫に須藤の本気を察したようで、ようやく戦慄く口を動かした。
「××公園の……公衆トイレ、に……」
それだけ聞いて須藤は振り払うように彼女を放ち、猛ダッシュであっという間に消え去った。
やれやれ…名取さんの事は心配だけど、あの須藤の勢いじゃ足手まといになりかねないので追うのは止めにしよう。
それより僕には僕のすべき事があるしね。