【短編】友達彼氏
それから、ゆっくり、ゆっくり。
スローモーションに牧瀬の顔が近付いてきて、私の視界は埋め尽くされた。
あと数センチで、触れてしまいそうな距離。
視線を下にずらし、目をつむる直前。
躊躇する彼の唇が見えた。
「・・・・いいよ、牧瀬」
「え」
「私、じっとしてるから」
こんなことは、初めてだ。
それなのに、やけに冷静に目を閉じた自分には、我ながら驚いた。
牧瀬が初めての相手なら、なんということもない。
躊躇うことも、後悔することもない。
だって私は、心の隅でそれを望んでいた。