もう、明日がないなら…
「母さんは、その二年後、仕事柄酒の飲み過ぎで肝臓を壊して、入院するんだ。そこであのクソ親父と出会い、結婚した。そして、僕が産まれたんだ。僕が産まれた時、ひとりの兄がいた。誰とも血の繋がらない兄がね。血の繋がりもないくせに、兄は全て僕から奪い、僕と母さんを屋敷の隅に追いやった。そして、事もあろうかあのクソ親父は僕を煙たそうに母さんから取り上げ、よりによってあの春日幸太郎の家に預けたんだ。取引先として知り合ったあの男が何度も家に来て、クソ親父と酒を飲んでいたのは覚えてるよ」

 雄哉の話を聞き、美妃は雅臣の話と一致している事でそれが真実である事を確信した。

「母さんはこの家であの男と再会してしまった。情緒不安だった母さんは、すぐにあの男に走ってしまった。あんな老いぼれに昔の感情を思い出してさ。あの男は、二度も母さんをどん底に陥れたんだ。存在したいがもう罪でしかないんだよ。結局クソ親父にバレて、母さんはこの部屋で軟禁され自ら死を選んだんだってわけだ。…とても不幸な人さ」

 吐き捨てるように彼がそう口にすると、「まさか、春日邸にあんな地下室があったなんてね」と言いながら、雄哉は上着のポケットから取り出したボイスレコーダーを掲げ、スイッチを押した。

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