もう、明日がないなら…
一 君の名は
 無機質なこの空間の窓辺には、ピンクのバラの花束が生けられていた。それはまるで何処かのお姫様の生き生きした頬のように鮮やかで、そこだけ希望が満ち溢れているようだった。

 窓のそばには、白いパイプベッドが置かれ、女が一人眠っていた。

 窓からさす光に誘われるように、女は静かにまぶたを開く。細く開けた目でぼんやりと天井を見つめ光に目を慣らすと、女は目を見開いた。そして、起き上がり小法師のように跳ね起きたのだ。

 落ち着きのない視線で、この部屋の中を舐め回すようにして見渡す。しかし、彼女には自分の置かれている状況を理解することはできなかった。

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