こんな能力なんていらなかった—鳥籠の中の鳥は愛を詩う—




 結局お父さんがフィリアムを抱き上げると、背中に乗せた。


「——全力で走るぞ」


 フィリアムは渾身の力でお父さんの背中に張り付く。振り落とされることの無いように。


 そして、お父さんが動いた。


すごい。


 森の木々は飛ぶように過ぎて行く。
 最初は凄い勢いで追いかけて来ていた破赫も、途中でパタリとついてこなくなった。

 そこから先は破赫の縄張り外らしい。


 それでもお父さんは走る速さを緩めることがなかった。

 村を包む水の幕を越えて、お父さんは足を止めた。そしてフィリアムを背から下ろす。

 フィリアムは背を向けたままのお父さんに興奮冷めやらぬ様子で話しかけた。


「お父さん、なんで私の居場所分かったの?」


 こんなに広い森の中では、フィリアムを見つけることは困難だっただろう。
 会えたこと自体奇跡だ。


 お父さんは、そんな様子のフィリアムを見下ろす。
 そして。


 ——パシン……


 森の中に渇いた音が響いた。


 痛くないけど、フィリアムは頬を抑える。

 そこは熱を持っている。


 ような気がした。



「おとう……さん?」



 お父さんは何も言わない。
 暗くて表情も見えない。

 お父さんは背を向けると、そのまま家に入っていった。


 フィリアムはその場で固まっているしか術はなかった。


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