だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版
ダンッッ!!!
言い終わるか終わらないかの瞬間、湊は握り締めていた左手を強くドアに叩きつけた。
その音に驚いて、涙が止まる。
思わず逃げたくなって身体をよじるけれど、捕まえられている腕の力に抗うことが出来ない。
すぐ横に叩きつけられた拳が、湊の拒絶のように響く。
私の方を見てくれない湊を見て、絶望的な気持ちになった。
やっぱり、そこは超えてはいけないところなんだ、と。
ここが、家族を恋人にしてしまった、私達の限界なんだ、と。
「ふざけるなよ・・っ!」
その声に、びくりと身体が震える。
怒りを滲ませたその声を、今は聴くことさえ耐えられなかった。
逃がしてくれない湊が、怖くてたまらなかった。
「・・・ごめんなさい。でも!」
仕方がないじゃない。
幸せいっぱいに話をする、同級生たち。
会話の大半が、彼氏か初体験について。
『時雨は、彼氏もまだだもんね』と言われて、それに愛想笑いを返す毎日。
別に、平気だよ。
湊とのことを誰にも話せないことくらい。
別に、平気だよ。
湊とのことが知られて、離れ離れになるくらいなら、そんなことくらい。
でもね。
じゃあ、湊は?
湊は、私に触れなくてもいいのかな。
私は、嫌だよ。
湊に触りたいし、湊に触って欲しいよ。