だから私は雨の日が好き。【夏の章】※加筆修正版

決壊...ケッカイ






降り出した雨のせいか、部屋の中には雨の音以外の音がしない。

静かに降る雨が、余計な音を取り去ってしまったみたいに。




「時雨」




そんな中で響いた、櫻井さんのその声。

今までにないほど穏やかで優しい声で、聞いたことのない声のはずなのに。



私の中の記憶が、大きく蘇る気配がした。

低く響き優しく届く、その声。



胸がバクバクと五月蝿い。

その声の主は、私が振り向く前に次の言葉を紡いでしまった。








「時雨、覚えておいて。俺はお前のこと、もう部下なんて想えないってことを」








玄関の外の廊下から、足音が聴こえる。

けれど、部屋の静寂の中には私の心臓の音の方が響いている様に感じた。

その人から発せられた言葉の意味を頭で理解する前に、身体の方が反応してしまった。



振り返るのが、怖い。



けれど、そんなのお構いなしに。

私の身体は、声の主を見つめようと動いていた。

きっと、私の顔は赤いに違いない。



目に映るその人は、満足そうに微笑んでいた。

何かから開放されたかのように、爽やかな顔で。



その顔は、あまりにも穏やかで。

私の気持ちをざわつかせた。





止まっていた時間を、動かすときが来るのかも知れない。





そんな予感が、心臓を痛くする。

時間がゆっくりと動き出す。




< 81 / 188 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop