砂漠の夜の幻想奇談


 この二人のチェス勝負、結論から言ってしまえばシャールカーンの圧勝だった。

盤上がどんな戦闘を繰り広げたかはテオドールのプライドを守るため割愛したい。

後にシャールカーンは「基本ルールに則った良いプレイだった」と感想を口にした。


とりあえず、まともに対戦できたらしい。

それで満足なのか、テオドール本人も素直に自身の負けを認めていた。


「さすが師匠。お強いです」

「いや、君もたった一晩でかなり進歩したね。凄いことだよ」

「師匠のご指導がお上手でしたから」


傍から見ると、これが婚約者を賭けて真剣勝負しているライバル同士の会話なのか、と疑いたくなる。


「王子とあいつ、なんか仲良くなってねーか?」

試合を見守っていたトルカシュが隣に立つバルマキーに囁く。

ラテン語の会話はよくわからないが、シャールカーンとテオドールの間にほのぼのした空気が漂っているのを感じたようだ。

「昨夜の間に友情でも芽生えましたかね?」

友情ではなく師弟関係だが、まあ仲良くなったことに変わりはない。


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