砂漠の夜の幻想奇談

一瞬、目を見張ってから、マリアムは笑った。

自分のために微笑んだ。

マイナス思考にならないように。

くじけないように。



「うん、いいね。マリアム、共においで」


シャールカーンが満足げに微笑した時――。


「きゃああっ!!!」


背後で女性の悲鳴がした。

振り向けば、いつの間にかやって来ていた侍女にルステムが剣を突き付けている。

「ああ…!」

死の恐怖に直面した侍女は、食事の入ったバスケットを取り落とす。

かろうじて、右手に持った蝋燭は無事だ。

「お前、城への道を知っているな?」

ルステムが低い声で脅すように問う。

「ひっ…!」


怯える彼女に、シャールカーンは獲物を狙う獅子の眼差しを向けた。


「案内してくれないかな」



不敵に口角をつり上げる王を前に、獲物は恐怖で平伏した。









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