砂漠の夜の幻想奇談


 正式にシャールカーンが退位したのはカシェルダがバグダードに戻った三日後だった。

カンマカーンが亡くなったので再びダマスの太守を務めることになったシャールカーンは、退位してすぐダマスに向かった。

王となったカシェルダはノーズハトゥと共に都に留まる。

王宮の門まで弟とサフィーアを見送りに出た後、カシェルダは王の居室に戻って苦しげな溜息を吐き出した。

そこへ、形だけ彼の妻となった王妃ノーズハトゥザマーンがやって来る。

「やはり、私の勘は正しかったのですね」

「……なんの話だ?」

「以前、サフィーア姫の婚儀の時に思ったことです。過去にどこかで、貴方様とはお会いしているような気がして…」

「ああ…あの時は嘘を言ってすまなかった」

「貴方様が…ダウールマカーン王子だったのですね…」

ノーズハトゥ自身、あまりダウールマカーンとは会ったことがなかった。

彼の顔を見たのは公式行事がある時くらいで、会話をした記憶もろくにない。

彼女がダウールマカーンの容姿を覚えていたのは単に、いとことして顔を覚えていないと失礼に当たる、という理由からだ。


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