人魚姫の罪
「なんで歌ってるんですか?」

今思い出せば初対面の人にバカみたいな質問をしたなと思う。
でもなぜか彼女に違和感を感じたのだ。

「え?」
彼女の顔は戸惑っていた。
「いや、やっぱいいです。」

顔を逸らし、またちらっと彼女を見ると
なぜか彼女は寂しそうに笑った。

「懐かしくて。」

「え?」

「海が。懐かしい。」
細いその声が頭に響いた。

そういうとまた僕に背を向けた。


「いい思い出がないの。海に対して。」

心臓が一瞬、激しく脈をあげた。
浮かんだのは母さんの顔だった。
「俺も。」

そう言ってその子の後ろで海を眺めた。


「兄ちゃんー!」

後ろから春が走ってきた。がした。

それと同時に彼女は黙ってたちあがる。

そして何も言わずに去っていった。
最後に僕の顔を見た彼女は


ひどく悲しそうだった。
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