捨てる恋愛あれば、拾う恋愛あり。
 
**


先週の水曜日の仕事帰りのことだった。


「あっ、琴音さん!」

「!」


私の住むマンションの最寄り駅の改札を出た瞬間、名前を呼ばれたのは。

聞き慣れた声に、はっと顔を向けると……


「…………え、惣介さんっ!?」

「琴音さん。こんばんは」

「こんばんは……って、一体どうしたんですかっ!?こんなところにいるなんて……」


笑顔を浮かべて私に駆け寄ってきた惣介さんに、ドキドキと心臓が速度を上げて鼓動し始める。

それは驚きだけではなく、惣介さんに会えて嬉しいという私の気持ちを素直に表していた。

でも何で惣介さんがこんなところにいるんだろう?

今日は何もないただの水曜日のはずなのに。

約束だってしてないはずだ。

何かあったのかな?


「急に待ち伏せしてしまってすみません。でも、会えて良かった!」

「えっ、はいっ」


“会えて良かった”なんて言葉をさらりと、しかも笑顔で言われて、外の空気は冷たいというのにほわほわっと身体が温かくなるのを感じる。


「これ。お届けに参りました」

「え?」


惣介さんは満面の笑みでガサッとビニール袋を私の目の前に差し出す。

……何だろう?

 
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