ロフトの上の冷たい毒 星のない漆黒の空の下


社内では、江頭和子だけが私達の関係を知っていた。


職場では、ケアレスミスが多く、単な伝言すら忘れてしまう彼女は、問題児でもあったけれど、評判は悪くなかった。


何しろ、口が上手い。


出たがりで、新人が入れば世話係を買って出る。
かと言って慈愛に満ちているわけではなかった。


その底意地の悪さ、狡猾さには誰もがすぐに気がつく。


江頭は、単純作業を繰り返す日々の中で刺激が欲しいだけだ。


彼女の社交的な面は私にはないもので、そこは素直に良いところだと認める。


けれど、私は彼女の調子良さがどうしても苦手で、胸のうちでは壁を作っていた。



ーー私、若い頃、医学生と付き合ってたよ。BM持っててさ。

私だって、引く手数多の時期があったのよ……




今は、白髪の目立つセミロングをただ伸ばしているだけの江頭は昔の自慢話を度々した。


本当かどうか分からないけれど、私も含め皆、彼女の武勇伝に笑顔で頷く。





< 41 / 66 >

この作品をシェア

pagetop