水のない水槽

浴衣

「お母さぁ~ん、帯やって~」

「ちょっと待ちなさい! 雪乃のが早く出るんだから」


花火大会当日――。幸か不幸か、姉の雪乃も花火大会に出かけるらしく、家の狭い和室はごった返していた。


「遠藤、来るんだって~? 気をつけなよ~。アイツ、結構、手ぇ早いから~」


濃紺に大柄の花が散らされた浴衣を着たお姉ちゃんが、鼻を鳴らしながらそう言った。


「…別にそんなんじゃないもん」

「ふ~ん、ならいいんだけど――…」


ドレッサーの前で器用に髪をアップにしながら「もうこんな時間っ!?」と慌て出す。


「あ、朔乃~、何かあったらお姉ちゃんに言いなょ~? アドバイスしたげるから♪♪」


そう言い残すと、お姉ちゃんは疾風のように去っていった。
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