Dreamer
「..で、泣いてたらみんなに見つかっちゃって。」

私の話をみんなは最後まで聞いてくれた。

そしてちょっぴり怒ってくれた。

「ったく、言ってくれたらあんな芝居なんて、俺考えなかったのに..」

「ごめん。みんなを困らせたくなかったから。」

「困らしてこそ、友達でしょーが!おバカみずき。」

「ごめんね、咲。でも、咲のお芝居すごかったよね?」

「あれは、たぶん半分感情入ってたよね?咲?」

「なっ..!うっさいよ、達也!それ言っちゃダメなやつ!」

「はいはい。」

「まぁ、これからが問題だよな?」

その言葉で、じゃれ合ってた咲と達也は動きを止めた。

確かに歌えなかったけど、私は今の私なら大丈夫な気がしていた。

「そうだね..どうやって声を直せば..?」

三人は必死に悩んでくれていた。

私はそんなみんなに、今聞いてほしくて試しに歌うことにした。

「ねぇ、みんな。私、今なら歌えそうな気がするよ。」

「ホントかっ!?」

優は机をたたきながら身を乗り出した。

「うん。もし、歌えたら..最後まで聞いてほしい。やってみてもいいかな?」

「「うん!」」

そう聞いた私に、みんなは声をそろえてうなづいてくれた。



私は目をつむり、みんなとの思い出を頭に浮かべながら、声を出して歌った。

"ありがとう"と心に込めて私は、歌い切った。



「..歌えた..!最後までっ!」

そう言いながら目を開けると、みんなが飛び込んできた。

「よかったぁ~!!本当にっ!!」

「また聞けて嬉しいよ!!」

「良い歌声だったよ、みずき!!」

咲は泣きながらほめてくれて、私もつられて泣いてしまった。

そんな私たちを、達也と優は笑って見ていた。

「みんな、あのさっ!」

私はみんなの前に立って、大きな声で叫んだ。

「本当に、ありがとうぉぉ!!!!!!」

「「どういたしましてぇぇぇ!!!!!!」」

「「……ぷっはははは!!」」


暗くなった教室には、私たちの笑い声が響いていた。


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そのあとの帰り道。

私は優と電車に乗っていた。

優は言いづらそうに重く口を開いた。

「みずき..お母さんたちのこと、どうするんだ?」

「うーん、考えてないこともないんだけどね..。」

「そうなのか!?例えば?」

私が言った言葉に驚いた優は、イヤホンを外しながら言った。

「私、オーディションがもし通ったら、一人暮らししようと思ってるんだ。」

「えっ!?」

「ビックリした?あははっ!許してくれるか分からないけど、私には、どっちかを選ぶなんてできないからさ。」

そう言って笑顔を向けると、優は"そっか"と言って私の頭を撫でた。

「みずきが決めたことなら、応援するぜ!」

「ありがとう、優。」

私は優とそんな会話をして、電車を降りた。

そして私は携帯を開き、メールを打った。

打つ手は少し震えていたけど、私はもう迷わないと決めていたから、
ちゃんと最後の文まで打つことができた。




「ふう~。」

別れ際に、優に押された背中はとても心強くて、
私は心の中で掛け声を出して、家の玄関を開けた。

[よっし!]

「ただいま。」

「お帰りなさい。」

そう言って出迎えてくれたのはお母さんだった。

お父さんの靴がなかったから、まだ帰ってきてないことを表していた。

「みずき、メールに書いてあった"話"って..。」

「お母さん。お父さんが帰ってきたら話すから待ってて。」

「分かったわ。」

お母さんはそう言うと、お父さんが帰ってくるまでの間、それ以上は何も言わなかった。

「..待たせてすまなかった。」

ネクタイをゆるめながらお父さんは、前と同じでお母さんと向き合って座った。

「おかえり、お父さん。さっそくだけど、どっちについて行くかっていう話だけど、その前に聞いてほしいことがあるんだ。」

二人は黙ってうなづいた。

「私が歌手を目指して学園に通ってることは知ってると思うけど、もうすぐ歌のオーディションがあって、それにもし合格できたら、音楽業界で活躍できるチャンスがもらえるんだ。それでね..」

私は深呼吸してから、口を再び開いた。

「もし、オーディションに合格できたら、私に一人暮らしをさせてほしい。」

「「....!?」」

二人は驚いて思わず顔を見合わせていた。

お父さんが焦ったように言う。

「な、なんで一人暮らしなんてっ..?」

「正直に言うと、私は、どっちかを選ぶなんてできないから。」

「みずき…!」

お母さんが困ったような顔をして、声を上げた。

私は負けないくらい大きい声で言った。

「だって私にとっては、二人はたった一人のお母さんとお父さんなんだよっ!?…二人が離れても離れなくても、これは変わらない。」

声を出しながら、目に力を入れたのは
この思いだけはゆずれないから。





「「......。」」

「......。」

しばらく沈黙が続いて、お父さんがそれを破った。

「それが、みずきの答えか?」

「うん。」

私はお父さんに向かって大きくうなづいた。

お父さんは"そうか"というと、私の頭を撫でながら

「頑張れよ。」と笑ってくれた。

そんなお父さんを見て、お母さんは驚いていたけど、静かに立ち上がり私の手を取って言った。

「応援する。..だけど、合格してもたまには顔を見せにきてね。」

「ありがとう。お母さん、お父さん。」


私は二人から、一人暮らしをすることの了解を得て、そして..お母さんとお父さんは離婚した。

寂しい気持ちは消えない。

だけど、一緒に住んでなくても家族だと私は信じている。だから、もう悩むことなんてない。

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