ヒールの折れたシンデレラ
「もう話さなくていい!」

そういう宗治の腕の中で千鶴は首を振る。

「私、今も怖い。こんな風に常務の腕の中にてもいいのかなって」

すると顔を宗治の大きな手でつかまれて上を向かされ、宗治の視線を合わされる。

「俺への思いを過去に偶然かさなった不幸のせいでやめないでほしい。思いのまま俺に気持ちをあずけてくれないか?」

こぼれる涙を親指で優しくぬぐってくれる。

「俺と一緒に少しずつ前に進んでくれないか?」

すると千鶴は涙をぬぐいながら、無理矢理笑顔を作る。

「私、常務のこと全力で好きになりますよ。覚悟できてますか?」

千鶴は常に誰かを思い切り愛したいと心のどこかで思っていた。

しかし大事な人を失う怖さを知っている千鶴は、その気持ちを抑え込んでいたのだ。

しかし宗治と出会って抑えきれなくなった思いがあふれだす。

「そんな風に言われてダメだって言えるヤツがいるなら会ってみたい」

宗治は千鶴の涙でぬれた眦(まなじり)に一つ小さなキスを落とした。
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