ヒールの折れたシンデレラ
千鶴は、出先で会議が長引いた宗治に、以前ランチで連れてきてもらった小さなイタリアンレストランで待つように言われた。

七時過ぎに店に着くと以前と同じように出迎えられ、個室に案内された。

仕事帰りだが、今日は宗治に会えると思っていつもよりもデート仕様の服装だ。

待ち遠しくてそわそわする。意味もなくスマホの画面をタッチして連絡が来ていないかどうかを確認した。

しばらくすると入口のほうから「いらっしゃいませ」という声が聞こえてきた。

顔を向けるとそこには、会いたくてたまらなかった宗治がいた。

思わず立ち上がって笑顔を見せる。

そしていつもと同じ千鶴の大好きな笑顔を見せてくれると思っていたのに……どこが困ったような表情を見せられて千鶴は違和感を覚えた。

「あの、疲れてますか?」

出張から帰ってきてすぐに仕事をこなしたのだ疲れているに違いない。

「ん、別に」

どこか引っかかるような笑顔を向けられて千鶴はそれ以上何も聞けなかった。

食前酒としてキールが運ばれくる。

それで宗治と乾杯をして、一口飲む。

どうやらカシスリキュールではなくフランボワーズのリキュールを使っているらしく新しい感覚でのどを潤した。

ムバラックから預かったというお守りは小さな石に刺繍糸を何本も絡めて織られた紐がくっついている可愛らしいものだった。

ドバイでの話を千鶴に話す宗治だったが、どこかいつもと違う距離感に千鶴はとまどい、肝心の話をできないでいた。
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