ヒールの折れたシンデレラ

「それ私が持っていきます」

勇矢と千鶴二人が給湯室の入口をみると、いつからいたのかそこには園美が立っていた。

「ありがとう、でもこれは私が持っていくね」

笑顔を浮かべる千鶴に園美は冷笑を浮かべる。

「いいえ、私が持っていきます。常務もきっとその方が喜ぶと思いますから」

園美の冷たい顔と紡ぐ言葉の意味が千鶴と勇矢には理解できない。

そのまま千鶴がいれたお茶を奪い取るようにして、園美は常務室へと向かった。

「どういうことでしょうか?」

驚いて固まってしまった千鶴の質問に勇矢も返すことができずにただ頭を左右に振るだけだった。

園美にお茶を持っていく役目を奪われた千鶴はなかなか宗治のもとに行くことができなかった。

今は仕事中だ。用事があったり呼ばれたりしない限りはほかの仕事をこなさなければならない。

(早く顔を見たいのに)

小さなため息を一つついて仕事に集中した。

昼休みになり常務室をのぞいてみたがそこには宗治の姿はなかった。

肩を落とした千鶴はメールで【今夜会いたいです】と短くメールを送った。

食堂でうどんをすすっているとメールが届いた。

すぐに確認するとそれは宗治からで【OK。ムバラックから土産預かってる】と書いてある。

(お土産か……なんだろう?)

焦らなくてもいい、今夜宗治にすべて話せるのだから。

自分にそう言い聞かせ仕事に集中した。
< 158 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop