ヒールの折れたシンデレラ
***

電車に揺られながら窓ガラスに映った自分の顔をみて千鶴は「お疲れ様」と心の中でつぶやく。

秘書課での初日は、精神と体力の両方にこたえた。

社内で広がった「シンデレラ」という噂はもちろん秘書課のメンバーの耳にも入っていて午後から“教育”という名目で華子や艶香に散々いびられた。

(本人たちは教えてるっていってるけど、あれはイビリ以外のなにものでもないわ)

思い出すだけで怒りと疲れが同時に湧き起こる。

不憫に思った園美が手伝おうとすると、“手出し無用”という無言の圧力をかけた。

しばらくすれば『シンデレラ』という噂自体が間違っていることに気が付くだろう。

それまでの辛抱だと自分に言い聞かせた。

駅前のスーパーに寄ってから、マンションに帰る。

駅から千鶴の足で七分。セキュリティもオートロックで比較的新しいこのマンションは就職してからの千鶴のお城だ。

会社が家賃の八割を負担してくれているのでなんとかやっていけている。

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