ヒールの折れたシンデレラ
しかし千鶴はきちんと話をしなくてはならないと思う。他人からではなく自分の口から自分の気持ちを宗治に伝えたかった。

「でも聞いてほしいの。私――」

「今更話してどうなるんだ?ばあさんに言われて仕方なく俺と付き合ったのか?報酬はなんだ?もう受け取ったのか?」

「っ……ちがっ――」

今まで聞いたこともないような宗治の冷たい声に千鶴はたじろぐ。

「何も違わないだろう。今言ったのが真実だ。何か間違いがある?」

確かに報酬もらうために、和子に言われるままに宗治を結婚させる気でいた。

しかし宗治の紡いだ言葉の中に千鶴の気持ちなど少しも入っていない。ただの事実だ。

「確かに宗治さんの言った通り。だけど私の気持ちを聞いてほしい」

「千鶴の気持ちを聞いたからって事実が変わるわけじゃないだろう?どうせ同じようにばあさんに兄貴のことも聞いて、仲直りさせるように頼まれたんだろう?」

「それは違う!」

思わず声を荒げてしまった千鶴はすがるような目で宗治を見つめる。

しかしその思いは宗治には届かなかった。


「千鶴の言うことならなんでも聞くと思った?」

「そんなことない。ちゃんと話を聞いて」

すがるような思いでテーブルの上でこぶしを握っている宗治の手に自らの手を伸ばすがそれはかなわなかった。
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