ヒールの折れたシンデレラ
「ごめん。でも聞きたくないって言ったのに話したのは千鶴だ」

そして、席を立つ。

「ちょっと熱くなりすぎてる。俺たち少し時間をおこう」

そういうと個室を出ていく。

一度も千鶴を振り返らないまま――。

どのくらい待てば千鶴の声が宗治に届くようになるのだろう……。

いつの間にか、たまっていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。

個室で誰の目も気にしなくていい。千鶴はあふれてくる涙を手のひらでぬぐう。

しかしそれはどれほど繰り返しても、あとからあとからあふれてくる涙で無意味と化した。

感情に任せた怒りに満ちた視線をむけられるならまだいい。今の宗治の目は冷たく、目の前にいる千鶴など見えて
いないようだった。

どうしてあの時、和子からの申し出を受けてしまったのだろう。

どうしてもっと早くに―――千鶴以外の誰かからその事実を知らされる前に―――話をしなかったのだろう。


どうして……どうして……

千鶴の心の中に渦巻くのは後悔だけだった。

去っていく宗治を追いかけることさえできない。

少しの間でも千鶴は宗治の人生を自分のために利用しようとした。

その事実が宗治を追いかけたいという思いにブレーキをかけていた。
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