ヒールの折れたシンデレラ
***

宗治は千鶴の部屋の前で電話を握り締め壁にもたれかかっていた。

日下の前代未聞の多額の横領事件による懲罰会議は案の定、大荒れに荒れた。

日下の言っていたマスコミの件は、すぐに手を打ち公になることはなかったが社内では色々な噂が飛び交っていた。

どれだけの人数がかかわっているのか、派閥によっては日下がいなくなることで立場が大きく変わる。

しかし今の宗治にとってはどうでもいいことだった。すぐに千鶴の傍に駆けつけられない自分の立場を久しぶりに恨んだ。

やっとのことで終わらせて、秘書の小言をかわしながらやっとのことで駆けつけてみれば部屋に千鶴がいない。

何度も鳴らしやっと通話ができたが、居場所をかたくなに言おうとしない。


どうして昼間無理やりにでも自分の部屋に閉じ込めなかったんだろう。

そう悔やんでもすでに遅い。

(千鶴はなんでも一人で決めすぎる。いや、そうさせてきたのは俺か……)

瞼の裏に昼間の泣き顔の千鶴が浮かぶ。

(このままではだめだ。千鶴は笑顔じゃないと)

頭を左右に振ってすぐにスマホで電話をかけはじめた。

「もしもし、遅い時間に悪いが調べてほしいことがある―――」

電話の相手の敏腕秘書は今日ばかりは小言も言わず宗治の依頼をすぐに引き受けてくれた。
< 188 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop