ヒールの折れたシンデレラ
アトリエに到着して自転車から降りたときに、入口に見たことのある車にもたれかかる宗治の姿を発見した。

「どうしてここが?」

「俺を誰だと思ってる?かくれんぼはおしまい」

そういって千鶴が忘れたくても忘れられなかった笑顔を向けられた。

たったそれだけのことなのに、体内の血が温度をあげ体中を駆け巡り始めた。

彼の存在一つがここまで自分に影響を与えるとは思ってもみなかったと同時に、彼なしで生きていくことの困難を今更ながらに思い知らされる。

「千鶴?」

一歩宗治が近づく。それと同時に一歩千鶴が下がる。

「なに?今度は鬼ごっこでもする気?いくらでも逃げていい。俺は絶対あきらめないから」

宗治の投げた言葉は甘い枷となって千鶴をその場から動けなくさせた。

「そんなこと――」

言葉を続けようとした千鶴は気が付けば間近にいた宗治の腕に抱きしめられていた。

「逃げないで、ちゃんと話をしよう」

耳もとで諭すように言われて、千鶴はそれ以上抗うことなどできなかった。
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