ヒールの折れたシンデレラ
鍵をあけて千鶴は宗治を中に招き入れた。

その間に宗治は車から風呂敷包みを大事そうに抱えてきた。

アトリエをぐるっと見渡すとリビング替わりに使っているテーブルの上に荷物を置き千鶴に近くへ来るように促した。

「あけてみて」

そういわれて風呂敷の中身は段ボールの箱だった。そのふたをあけると千鶴は驚きで目を見開く。

「この絵……どうしてっ!」

宗治を振り返ると笑顔で答える。「あるべき人のところに戻った来たんだ」と。

もう一度絵に目をむける。そこには変わらずに千鶴に笑顔を向ける母親が描かれていた。

父のアトリエに戻ってきた絵をみていると、ここで母をモデルに父が絵を描いていたのだと感じ涙があふれてきた。

必死で涙を拭い気持ちを立て直す。

宗治はあるべきところへと言ったが、これは和子の持ち物だ。

千鶴は和子に出された条件を放棄したのだ。これが手に入るはずがない。

「会長には、条件をのめないから絵いらないと……」

「条件って俺の結婚?」

ズバリ言われて、罪悪感から目をそらした。

「すみません。常務の大事な人生を自分の目的のために利用しようとしたりして」

両手で自分を抱きしめて宗治に謝る。

千鶴が一番宗治に言いたかったことだ。震える自分に気づかれないように言った。
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