ヒールの折れたシンデレラ
しばらく見つめていると、いきなり思い出したのか「あー!」と叫び、時計を確認する。


「今日約束があったんだ!忘れてた。すみません私ここで失礼します」

一気にまくし立てて、席を立って走り去っていく。なんだかそのせわしなささえも宗治のツボに入り思わず笑ってしまった。

「お前、寝た女とは朝を迎えない主義とかなんとか言ってなかった?」

「バカ。一緒に睡眠をとっただけだよ。それにあいつはそんなんじゃない」

ショップのロゴのついたマグカップを両手でもつ。


「なあ、お前今どんな顔してるかわかってるか?」

勇矢のいきなりの質問の意味が宗治にはわからない。

「ん?どういう意味だ?」

「いや、別にいい」

そう言って笑みを浮かべて勇矢はコーヒーを飲んだ。

「いや、久々に“おまえ自身”に会ったような気がしただけ」

「は?毎日顔あわせてるだろ?」

勇矢の意図することがわからないまま、宗治は残りのコーヒーをすべて飲み干した。
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