ヒールの折れたシンデレラ
「そうかそれはそうとお兄さんは元気かね。急に葉山の家を出たと聞いたが」

「兄も元気にしてますよ。小さい頃からの夢の弁護士になって日々忙しくしているようです」

「ほぉ。それは頼もしいね。たしか結婚もされたんだって?」

「はい、五年前に……」

宗治の声色が少し変化したのに、その場にいるのが精一杯だった千鶴は気が付くことはなかった。

それよりも自分の置かれた立場を理解するのに必死だ。

華子の父と同じように艶香や園美の実家の関係者も多数いるだろう。

ここでその中の誰かを引き連れているよりは“普通の子”の千鶴を伴っているほう波風を立てずにすむ。

宗治が千鶴を連れて歩いたわけに納得したが、それとは別に心に一つポツンと墨が落とされた気がした。

(これが私の役割なんだから、ちゃんとしなきゃ)

よくわからないモヤモヤを心に押し込めて背筋を伸ばした。

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