ヒールの折れたシンデレラ
翌日、まだ疲れが抜けきらない身体をひきずって出勤した。

デスクでパソコンの電源を入れて日課のお茶の準備にとりかかろうとすると、いつも遅刻ギリギリにくる艶香が出勤してきた。

「ちょっと付き合って」

そういって有無も言わさず千鶴を連れ出す。

普段はあまり使われない階段へ連れてこられた千鶴は艶香と向かい合って立つ。

「昨日、シャンパンかけたこと謝る」

きゅっと口を引き結んだままうつむいている。

まさかプライドの高い艶香から謝られると思っていなかった千鶴は、その態度に驚く。

「なんか私が聞いた話と三島さんが聞いた話が違っていてそれであんな言い争いになったのよ」

「聞いた話?それって一体誰からーー」

どういう内容だったんだろうと気になって聞こうとした矢先、園美が艶香を呼びに来た。

「後藤さん、会長の第一秘書の方がお呼びですよ」

「わかったすぐ行く」

そういってデスクへと戻って行った。

園美と千鶴は給湯室でお茶の準備をする。

「昨日のドレス素敵でした。あれは常務から?」

「私がドレスを持っていないのを見越して準備してくれていたみたい」

手を止めることなく話をする。

「なんだか瀬川さん大事にされてるんですね」

「そういうわけじゃないよ。昨日は取引先の関係者の顔と名前を一致させるために私を連れていただけだから」

「そうなんですか?」

嬉しそうに弾んだ声。

自分もこれぐらい素直になれればいいのにと自分と比べて無邪気な園美がうらやましくなった。

「今日も常務のコーヒーは私がもっていきますね」

園美の満面の笑みをみて断れるはずがなかった。
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