ヒールの折れたシンデレラ
エレベーターのボタンを連打しているとすぐに扉が開きそこに乗り込む。

走ったせいか心拍数があがっている。

(あんなところでどうして……!)

今まで会社の子とはそういうことはしないと勝手に思っていただけで、結婚しないと恋愛しないはイコールではないということか。

もし艶香自身結婚を望んでいないとしたら、二人が親密な関係になっていてもおかしくない。

そもそも宗治はそういうタイプの男だ。千鶴だって十分理解していたはずだ。

千鶴の前ではそういう顔を見せないから忘れかけていた。

そういう風に頭では理解したつもりだが、先日心に落ちた小さい墨はどんどん色濃くなっていく。

千鶴は自分でもどうしてこんな思いをするのか、わからないまま気持ちだけが澱む。

エレベーターの中でぶんぶん頭をふると“ポーン”とエレベーターが一階への到着を知らせてきた。

エレベーターホールを抜けて出入口の自動ドアから出ると、ガードレールに持たれる千鶴を待つ男性の姿があった。
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