ヒールの折れたシンデレラ
「煌太(おうた)兄ちゃん」

千鶴は気持ちを切り替えて小走りで駆け寄った。

「待たせてごめんね」

顔の前で両手を合わせて謝る。

「いつものことだろ。気にするなよ」

「そんないつも遅れてるみたいにいわないでよ」

言い返すと「悪かった」と千鶴の頭をなでて、車の助手席を開けてくれた。

美作(みまさか)煌太は千鶴を引き取って育ててくれた叔母、仁恵(ひとえ)の息子にあたる。

小さいころから本当の妹のように千鶴を大切にしてくれた従兄だ。

三十分ほど車にのり、千鶴が大学卒業までそだった美作家に到着した。

「ただいま~おふくろ、千鶴連れてきたぞ」

玄関をあけて大声で煌太が叫ぶと、台所から仁恵がエプロンで手を拭きながら出てきた。

「わざわざありがとう。仕事忙しいんじゃないの?大丈夫?」

「大丈夫です。今日はおじさんの命日だから今日くらいは早く帰らせてもらいました」

そういって、仁恵と台所に立ち食事の準備をする。

叔父の好きなメニューばかりが並ぶ。それを盛りつけテーブルに運んだ。

そして食事の前に仏壇に手を合わせる。

遺影として使われている写真の叔父は笑顔だ。

あんなに苦しんでつらい思いをしたあの時の顔でないことで千鶴の罪の意識が多少軽くなった。

「千鶴ちゃんまだあのとこきのこと悔やんでるの?」

「あれはどんなに考えても、おやじが悪かったんだ。だから千鶴が気にすることじゃない」

そういわれても千鶴の脳内からあの時の記憶が消えるわけではない。
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