ヒールの折れたシンデレラ

(5)近づく距離と代償

「……この案件に関しては経営企画室に再度さしもどして検討してもらいます」

宗治の前で千鶴が書類をめくりながら話をしている。

「その件に関してはすべてまかせる」

千鶴は経理に五年もいたおかげで数字については強い。


それに仕事に関する勘も鋭く一言いえば十理解できる。

宗治と勇矢は千鶴の仕事の腕をみて、勇矢が一人でやってきていた仕事を徐々に千鶴に回していた。

「それと、今日昼だけど相手の都合が悪くなって予定キャンセルになったんで、一緒に昼飯どう?」

すると一瞬困ったような顔をして千鶴が答える。

「私今日もお弁当なんです」

(またそれか)

最近宗治が誘っても弁当を理由に千鶴は断り続けていた。

理由は宗治にもわかっている。あの夜ロビーで会ったときの宗治が原因であることが。

あの日から仕事はきっちりこなしているが、こういった誘いには一切のらなくなった。

「じゃあ、弁当今持ってきて」

宗治の突拍子もない言葉に千鶴は目を丸くする。

「あの、いったいどういうことですか?」

「だから君の弁当今ここに持ってきて。まさか嘘ついたの?」

宗治の“嘘”という言葉に反応する。

「そんなくだらないことで嘘なんかつきません」

自分のデスクに戻ると、赤いギンガムチェックのランチクロスに包まれた小さな弁当箱をもって戻ってきた。


そして無言で宗治に差し出す。
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