ヒールの折れたシンデレラ
「これでいいですか?わざわざこんなこと確かめなくても」

口をとがらせて文句をいう千鶴をしり目に宗治はランチクロスをほどいた。

「中身まで見るの?」

驚きのあまり敬語を忘れた千鶴は唖然として宗治の行動を見る。

すると弁当箱をあけて一緒にいれてあった箸を持つと、卵焼きを口に運んだ。

「うまい。俺甘い卵焼き好きなんだ」

そういって千鶴にニコリと笑うと、次から次へと口に運び、あっという間に小さな弁当箱はからになった。

「ごちそーさん」

両手を合わせてそういうと、また元の形に弁当箱をもどした。

「そ、そんなにおなかすいていたんですか?」

「ん?別に。でもこれで君のお昼食べるものがなくなってしまった。だからお詫びに食事をおごらせてくれないか」

思いもよらない提案に千鶴は目をパチパチと瞬きさせる。

「もしかしてそのために?」

そう尋ねる千鶴に宗治は首を傾けて「さぁ?」という態度をとる。

「ふふふ……あは、もう常務がそこまで言うならしかたないですね」

千鶴は声をあげて笑った。

「仕方なく付き合ってくれてありがとう」

「では、午前中の仕事早くおわらせてきます」

クスクスと笑いながら常務室をでていく。

久しぶりに笑った顔を見た気がする。少々強引な方法だと思ったが仕方がない。

そうでもしなければ「あの男だったら二つ返事でOKするのか?」と問いただしてしまいそうだった。


(まるで嫉妬してるみたいじゃないか)

自然と浮かんできた考えに自分でも驚き、頭をガシガシとかきむしった。

自分が蒔いた種とはいえ、千鶴と気まずい時間を過ごすのは宗治にとって苦痛だ。

この食事でまたもとの距離にもどれればいい。

宗治はそんな風に思いながら仕事にとりかかった。
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