ノーチェ


雲一つない青空。
太陽が浮かぶ空に、百合子さんの笑顔が見えたような気がした。




『薫の事、どうかよろしくね。』


……百合子さん。



あなたはあの時
全てをわかっていて
あたしに笑ってくれた。

なのにあたしは
あなたとの約束さえ、果たせそうにありません。




薫はもう、あたしを見てはくれない。

あたしを、映してはくれないんだ。




……気が付いた時には遅い。


よく人は、そう言うけれど

気が付いていたとしてももう、遅い。




初めから、全て
間違っていたんだから。




「……バカだな、本当。」

手の平を見つめて、小さく言葉を吐き捨てる。



そんな時、聞こえた足音にゆっくり顔を横に向けると

「こんな所に居たのか。」


人目を避けるように桐生さんが歩み寄ってきた。



< 282 / 306 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop