Rhapsody in Love 〜約束の場所〜
涙が出そうなのは、石原が帰ってしまうからではない。石原が嘘をついてまでここに留まろうとしている……そうさせているのが、自分だということだ。
今、石原がこうやって慰めなければならないのは、自分ではなく彼の奥さんだ。
何は出来なくとも、父親として、苦しむ娘の傍にいてあげなければいけない。
「…ダメよ!お酒なんて飲んでないでしょう?すぐに運転できるんだから、今すぐ行ってあげなきゃ。」
石原は唇を引き結んで、みのりを見下ろした。みのりは奥歯を食いしばって、涙が流れ出すのを必死でこらえた。
しばらくの沈黙の間、石原はみのりを抱く腕に力を込めて離してくれなかった。
「……お願い。早く行ってあげて。」
みのりは手に持っていた石原の服を押し付けて渡し、その腕からすり抜けた。
石原が服を着る間、みのりも自分の服を探して手早く身に着けた。
石原が身支度を整えて玄関へ向かうと、ソファの前のテーブルに携帯電話を忘れているのにみのりは気が付いた。靴を履く石原に、それを差し出す。
石原がそれを黙って受け取ると、みのりは落ち着かないように腕を組んだ。