ヴァージン=ロード


 男に興味がないわけじゃない。むしろいつだって素敵な人はいないかな、と考えている。
 ただ、結婚には夢を見ていないだけ。結婚はしたくないけど恋愛はしたい、そんな虫のいいことを考えていたら、恋愛まで遠ざかってしまったという、ただそれだけのお話。
 理想が高いわけでもないし。ただ、この業界にいると、見目麗しい人ばかりに囲まれているから、目は肥えてしまっているかもしれない。


 ガタイのいい男の人がメイク道具を片手に私の顔を覗き込んだ。慣れた手つきで私の髪の毛をいじくる。

「やっだぁぁあぁ、ISAKIってば、今日も綺麗よ」

 いい笑顔でオネェ言葉を繰るこの人は、ヘアメイクアーティストのコータさん。インパクトの強い人だけれど、凄腕のアーティストで、私は凄く信用している。
 鏡の中の私は、濃い撮影用のメイクで別人のようになっている。確かに別人のように綺麗だ。

 今日の撮影は、某大手ブランドの新作ジュエリーの広告用だ。身に着けるのも手が震えるような金額のジュエリーを身に纏うのも慣れた。
 ブラックの、ファーで襟元を飾られたドレスは、ダイヤモンドをちりばめたシルバーのネックレスを引き立ててくれるはずだ。まだ身に着けていないけれど。
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