まだ知らない愛。
翔は私の唇から離れ、私の目を見て固まっている。何も映さない、どこを見てるのかも分からない目は死んでいるのかもしれない。
「もう、いい?」
固まる翔を置いて教室を出た。
このまま玄関に行けばきっと遅い私を心配してる四人がいるはず…。
翔とキスをしてしまったことに罪悪感と後ろめたさから今は会いたくなかった。
それでも一応葵さんに「遅くなるから先に行ってて」と連絡を入れた。

こういう気持ちの時は街に行きたくなる。騒がしい街の中を歩いてると自分がちっぽけな存在に思えて落ち着くんだ。
裏門から出ると頭の上から聞きなれた声が振ってくる。
「遅くなるんだって?」
振り返らなくても分かるその声に反応できない私の腕を引いて引き寄せる。
「どこ行くんだ?」
「…」
「何かあったのか?」
「…」
「真藤翔に何かされたのか?」
真藤翔と言う名前に同様を隠せず肩を震るわせた私をジッと見て
「そうか…」
と呟いた。なにがそうかなのかは分らないけど放たれているオーラからして怒っているのは分かる。
「どうして私なの」
「あ?」
「綺麗な綾芽さんじゃなくてどうして私なの」
「…」
「瞬さんには綾芽さんが必要なんでしょ…?」
「あいつに何か言われたのか?」
一気に増す不機嫌オーラと低い声に俯く。
「翔と綾芽さんは付き合ってないんだって」
「は…?」
「翔にキスされた」
きっとこの言葉には瞬さんも驚いているだろう。知らされた事実と翔とキスをした私には軽蔑するだろう。
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