キス魔な彼の愛情表現
あれは丁度1ヶ月くらい前だった。(たぶん)

まだ、生暖かい風が吹く夏の終わり頃。

あの日も、透き通るようなキレイな青を、ぼーっと見ていた。

何も変わらない日常。

いつも通りに、今日が終わる。そう、思っていたんだ。



突然、扉が開く、“ギイ…”という音が聞こえ、私は目線だけをそちらへ向けた。

そこにいたのは、この学校で『キス魔』だと噂される片岡 明アキラだった。

女の子相手に(時には男の子も)チャラい言動をしていて、いつも大袈裟なほどに笑っている彼。

だけど、今目の前にいる彼は、そんな面影なんて一切なくて。

「良いところだね、ここ」

話し方も、纏う雰囲気も、微笑み方もいつもとまったく違う彼に、私は少し驚いた。

「…そっちが素なの?」

学校では先生以外と一言も話すことがないほうが多かった私が、自ら話しかけるなんて珍しいことだった。

「…うん。幻滅した?」

そう言った片岡明の顔は少し悲しげだった。

なんでそんな表情をするのかなんて、まだこの時の私にはわからなかった。

「別に。どうでもいい」

そう、他人なんてどうでもいい。

なのに、儚げな表情を見せる彼のことが、私は少し気になっていた。

彼は目を見開いたが、すぐにフッと顔を緩ませた。






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