同居相手は黒猫くん





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「あれ、刹はお風呂?」



リビングに行くと、佐伯さんがソファに座っていた。




「うん。そのあとに比乃ちゃん入りな」


「あ、ありがとうございますっ」




すると佐伯さんは、優しく笑った。




「比乃ちゃんが俺のこと、佐伯さんって呼ばなくなる日はいつになるかな」


「…あ…」




そういえば私、

佐伯さんのこと〝お父さん〟って呼んだことない……。




「比乃ちゃんの中にまだお父さんがいるのは分かってるよ」




佐伯さんは自分の隣をポンポンと叩いて言う。

おいでってことなのだろう。


私は佐伯さんの隣に座った。




「比乃ちゃん」


「……はい」


「俺とお父さんを重ねなくていいんだよ」




温かくて、優しい声。

スウッと心が軽くなった気がした。


なぜか、自然と目頭も熱くなってくる。




「…え」


「お父さんは一人じゃなくていいと思うよ」





――私は



お父さんと佐伯さんを重ねようとしていた。


でも、それは簡単じゃなかった。



私の中のお父さんは、本当に大きかったから。



佐伯さんのことが嫌いなんじゃない。


むしろ大好きだけど、



お父さんと佐伯さんは〝お父さん〟でも、一緒じゃない。



重ねることはできなかった。




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