シェリー ~イケない恋だと、わかっていても~
『ごめん、お待たせ。大丈夫、いつでもおいで!』
「い、いの……?」


あれ、匠哉さんいないのかなぁ?


『何言ってんの!大丈夫だからおいで!それに、彩月』


梨江子の声が若干、低くなった気がした。


『何かあったでしょ、声震えてるよ』
「……え」


やっぱり、梨江子はすごい。


わたしの声が震えてるって、そういうとこまで分かっちゃうんだもんなぁ……。


『とりあえず、話は会ってから!いつでもいいから、待ってるね。気を付けておいで』
「……うん。ありがとう、梨江子」


電話を切ると、携帯をキュッと胸のとこで抱きしめた。


もう、わたし相当弱ってるのかもしれない……。


梨江子に優しくされただけで、こんなにも気持ちが乱れるだなんて……。


梨江子の家に行くだけなんだけど、中にブラウスを着たように見せた重ね着風のアーガイルセーターを。


ピンクと黒とグレーの色が入ってて、胸元から見える大きなシフォンリボンがアクセントになってる。


下は、ブラウンのタックミニスカートを。それに黒の編上げロングブーツを穿いて。化粧も、見れる程度にして。


昨日のおかずたちは、昨日タッパに詰めてたから、わたしの大好きな水色の水玉柄の布で包んで落ちないように両手で持つ。


「行ってきます」


誰もいない部屋に向かって言うと、鍵をかけ梨江子の家へと急いだ。


梨江子の家まで徒歩10分。


チャイムを鳴らせば、すぐに迎えてくれ梨江子の笑顔に少し救われた気がした。


玄関には梨江子の黒のブーツと、男性の靴が2組。


一つは、きっと匠哉さんの。でも、もう一つの見たことのないスニーカーは、誰の……?お客さん……?


この出会いが、わたしの運命を大きく変えるなんてこの時はまったく想像もしていなかった。

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