メロディフラッグ
「もし、そのときの気持ちと上手く合致するような曲だったら、音にのせるだろうなあ。ただ、悲しいときに嬉しい気持ちを表す曲だったりしたら―――、」

時任の目に哀しみの色が浮かぶ。

「嬉しい気持ちが表せるのが、プロなんだろうね。僕はそれが、」

そこまで云って口をつぐむ。


「まあ、人それぞれなんじゃないかな。その人に一番ふさわしいやりかたがあるんだと思う」


さあ、続きをやろうか。時任は静かにうながした。




きっと今の自分は、怒りを音で表せないだろうな、次郎は思いながら鍵盤のうえの指に力をこめた。




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