ウソつきより愛をこめて
「…待っ、…あぁっ…!」
指が下着の内側に侵入して来たせいで、思考が断絶させられる。
やめさせたいのに、私の口からは熱い吐息乾いた喘ぎしか出てこない。
彼の“我慢”という言葉の意味が理解できなかった。
別れてから今まで恋人がいなかったなんて、そんなはずはないのに。
指が動く度だんだん大きくなる水音を聞きたくなくて、いっそのこと耳を覆ってしまいたくなる。
気持ちよくて、他のことが何も考えられない。
―――そこから私が上り詰めてしまうのは、本当にあっという間の事だった。
高揚感と喪失感に襲われる私の目の前で、彼は満足気に濡れそぼった指に自分の赤い舌を這わせている。
このまま、なし崩しに抱かれてしまうのだろうか。
荒く息を乱しながら、私は精一杯の虚勢を張った。
「…変態」
「どっちが?」
バカにするように笑った彼の手が、再び私の方に伸びてくる。
でも予想とは反して、その手はいつまでも私の頭を優しく撫でていた。
「寧々は俺が迎えに行ってくる。…先にシャワー浴びてろ」
そのままあっさりと離れて玄関へ向かっていった彼の背中を、私は呆然としたまま見送る。
昔みたいに押し倒して、無理やり言うことを聞かせるくらい簡単に出来るはずなのに…。
彼がそれ以上手を出してこなかった理由が、私にはわからなかった。