ウソつきより愛をこめて

「え?」

「私が部屋に来た時さ、なんかこの階を怪しい男がうろついてたんだよね」

「それでどうしたの」

「ひと睨みしたらエレベーターに乗って逃げて行ったよ。住民じゃないみたいだったし、どうやって入って来たのかなぁ…。宅配業者にでも紛れて入って来たのかしら」

「…ふーん」

「もう、あんたもうちょっと危機感持ちなさいよね。見た目だけで寄ってくる男なんて、今まで何人もいたでしょ?」

「褒めてるの?…それともけなしてる?」

「それでなくとも、あんたは今超美少女の母親なんだから!もし寧々ちゃんのこと狙うやつがいたら、ちゃんと守ってあげるのよ!」

「そんなロリコンは、私が成敗するのでご心配なく」

「…なら安心だわ。しかしあの人、女に困ってそうな感じでもなかったんだけどね~…」

「へ?」

「面食いな私でもありなくらい男前だったから。久々にときめいたわ」

「……」

「じゃあ戸締りしっかりね。お休み」

出て行く美月に向かって手を振り、鍵を全部閉めてチェーンをかける。

…そういえば、あの香水…。

「まさか、ね」


その時の私の心はまだ、まるで嵐の前のように風ひとつなく穏やかだった。

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