ウソつきより愛をこめて
「エリカ…?」
「あれ、安心しちゃったからかな。なんか、とまんな…」
堰を切ったように、はらはらと涙が溢れてくる。
拭っても拭ってもなくならないそれは、私の中に残っている未練のように思えた。
私が不倫と浮気をしたように思わせたことは、後悔していない。
婚約者の元に戻る彼に、子供までいないと思われるのはどうしようもなく惨めだったから。
「ひろくん、ごめっ…。こんな嘘つかせて、本当に…」
嗚咽をどうにか堪えながら、ひろくんに何度も頭を下げる。
「元カレが勘違いして、ずっと付き纏われてたんでしょ?寧々を預かってもらってる手前、俺にも責任あるから」
その場にうずくまってしまった私の背中を、ひろくんが優しくさすってくれていた。
「ママいたいの?どこ?」
「…もう大丈夫。どこも痛くないよ」
こんなに小さい寧々にまで、心配はかけたくない。
そう思うのに、私の中に残る彼の優しい温もりが邪魔をしてくる。
もう二度と彼に触れることは出来ない。
…前に進める日なんて、一生来ないかもしれない。