ウソつきより愛をこめて
少し低めの体温が、触れ合った部分を通して伝わってくる。
軽く一度だけ交わされた口づけ。
翔太の唇は、まるで余韻を味わうようにゆっくりと離れていった。
「なに…して…」
羞恥に戦慄く(わななく)私を、翔太が満足そうに見下ろしている。
翔太は絶対に人前でこんなことするタイプじゃない。
予想外の行動に、言い出すタイミングを失ってしまった。
「俺が寧々の父親になりたいって言ったの、覚えてるか」
「…え…?」
「今もその気持ちは変わってない。…むしろ、あの時よりも強くなった。それがなんでかわかるか?」
あれだけひどい嘘をついて騙してたのに、何を言ってるの。
自分の子供じゃなくても、父親になりたいなんて…。
弱々しく頭を振る私を、翔太は眩しそうに見つめていた。
「お前が母親だからだ。たとえ父親が誰でも、寧々はエリカが血を分けたった一人の娘だろ。お前の大事なものは、俺にとっても大事なんだ。俺はエリカのことも寧々のことも、あいつなんかに渡したくない」
「…しょう、た…」
「…無理なんだ。お前じゃなきゃ」
そう言った同時に背中へ腕が回り、翔太の胸に引き寄せられていく。
まるで壊れ物を扱うような優しい手つきに、胸の音がどんどん大きくなっていった。
「俺と一緒に生きる道を選んでくれるなら、責任持って、寧々のことも俺が養ってく」
信じられない言葉を次々と聞かされて、脳が麻痺しそうになる。
だってここまで想われていたことに、気づかず過ごしてきたのだから。
「好きだエリカ。出会ってからずっと、俺はお前を愛してる」