ring ring ring
 わたしたちは、お互いがいる場所から考えて、ちょうど中間になる駅を選んで会うことにした。高林くんはわたしのところへ来ると言ったけれど、忠信さんのマンションの近くだったから気が乗らなくて、わたしが提案したのだ。電車を降り改札を出ると、切符売り場のそばに高林くんの姿があった。わたしを見つけて、手を振っている。
 「おまたせ」
 「いえいえ。あれ、もう涙止まったんですね」
 「泣いてないんだってば」
 わたしのしらじらしい嘘を、高林くんは笑った。今はその陽気さにすがりたい。
 「この駅なら、おれ、いい店知ってるんで、飲みましょう」
 外はすっかり春らしくなって、夜でも薄いジャケットを羽織る程度で歩けるようになった。もう春か、と思う一方、まだ春なのかとも思う。忠信さんにプロポーズされたのはクリスマス前のことだったから、まだ半年も経っていないのに、何という中身の詰まった数か月だったのだろう。指輪を渡されたときの緊張と喜びは、今もまだはっきりと思い出せる。でもその後の、甘えたわたしの勝手な行動で、すべてを失う結果となってしまうなんて。隣を歩く高林くんは、何も聞かないけれど、きっと察しているだろう。
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