ring ring ring
 高林くんの気持ちがわからないと思っていたのは、どうやらわたしだけだったみたいだ。
 「やっぱり、そういうこと……なのかな」
 「そういうこと、でしょ」
 由紀が両手でとろみのあるお湯をすくいながら言った。湯気は風に流され、湖の上を渡る雲のように広がっていく。
 「美波さんって、わたしたちの心配ばっかりして、自分のことは全然話してくれないから、そんなふうになってるなんて高林くんから聞くまで知りませんでした」
 「そっかぁ……って、ちょ、何?高林くんが何か言ったの?」
 「へへへ〜それは高林くん本人に聞いてくださーい」
 はるかちゃんはいたずらっ子の顔をして、立ち上がった。気になるんですけど。
 「わたし先に上がります。由紀さんも、のぼせて倒れる前に上がってくださいね!」
 「余計なお世話!」
 「あ、今日は旦那さんもすぐ隣にいるから倒れてもすぐに愛の手が……きゃーっ」
 冷やかすはるかちゃんめがけ、由紀が湯をかける。はるかちゃんは楽しそうに笑って、露天風呂を後にした。
 「もうっ、あいつ!」
 「ふふ、たしかに3人でお風呂にいると、あのときのこと思い出すけどね」
 「美波まで〜。あれは苦い思い出だから、もう忘れてよ」
 のぼせたのか、照れているのか、由紀の頬は少女のように赤く染まっていた。
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