ring ring ring
 わたしたちは、『ふたりだけの空間』から出て、人ごみの中へと場所を移した。お台場という場所柄、観光客も多く、どこもかしこも人だらけ。まっすぐ歩くのはもはや不可能だった。人気のショッピングモールで、人をかきわけ、誰にもぶつからないように進んでいると、ふいに高林くんが、
 「はぐれないように」
 と手を差し出した。
 「えっ?いやいやいやいやいやいや、大丈夫だから」
 付き合ってもいないのに!と躊躇してしまうわたしは、なんて乙女なのか。ところが高林くんは、そんなわたしの心中を察することなく、不快な顔をした。
 「何でこの期に及んでイヤがるんすか」
 「だってだって、付き合ってるわけでもないのに、ラブラブみたいじゃない」
 「はあ?!」
 高林くんが突然、立ち止まった。少し後ろを歩いていたわたしは、その細マッチョな背中にどんとぶつかる。
 「ちょっと、あぶないでしょ、あ、すいません!」
 人ごみの中、急に立ち止まるのはマナー違反だ。間髪入れずに後続の人とぶつかってしまった。
< 154 / 161 >

この作品をシェア

pagetop