ring ring ring
 だけど高林くんは、周囲の迷惑げな視線に臆することなく、くるりと振り向いてわたしと向かい合った。
 「おれ、美波さんと付き合ってるんじゃないんですか」
 雑踏の音に紛れないくらい、はっきりとした声で言う。
 「ええ?」
 いつの間に、そんなことに?
 わたしがあまりにも本気で驚いたせいか、高林くんはまるで演劇のように大げさにがっくりと首を垂れる。行き過ぎる人々が、何事かとわたしたちをチラチラ見るのが気になって、
 「場所変えない?」
 と促してみたけれど、返事は、
 「場所とかどうでもいいんすよ!おれは、もうずっと前から美波さんの彼氏なんだと思ってました!あのスカッシュデートの後くらいから、距離が急激に縮まったなって思ってたし、会う回数も増えたし!」
 という、的外れで熱いものだった。
 「やめて、恥ずかしい。人が見てるし」
 「だって美波さん、いつもおれと会うとき、デートだって言うじゃないですか」
 「いやそれは……ていうか、ほんと恥ずかしいから」
 「美波さんは、デートって言葉、どういうときに使うんですか」
 もうダメだ、止められない。
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