ring ring ring
 帰りは忠信さんが車で駅まで送ってくれた。
 「泊まっていけばいいのに」
 「うーん、でも週半ばだし、またにしとく」
 わたしは車を降りて、開けた窓越しに手を振った。
 「送ってくれてありがとう。気をつけてね。おやすみなさい」
 「おやすみ。また明日」
 「あ、ねえ」
 わたしの声に、閉まりかけた窓の動きが止まる。
 「また作るから、食べたいもの考えておいてね」
 忠信さんが少し困った顔をしたように見えたのは、暗がりのせいだろうか。そうでなければ、おいしいと言って平らげてくれたのは、偽りだったのだろうか。わたしの心に一瞬、不安がよぎる。でも忠信さんは、そんなわたしの気持ちに気付いているのか、いないのか、
 「楽しみにしてるよ。それじゃ」
 最後は、いつものやさしい笑顔を見せた。
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